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"さよならソルシエ"(著:穂積)

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宝島社「このマンガがすごい! 2013・オンナ編」で第2位になった『式の前日』の作者の新作(尚、本作品は同ランキングの2014年オンナ編1位だ)。ということで、上京する前に書店で買って新幹線の中で読んだ。 本作では19世紀末のパリを舞台に、画商のテオドルス・ファン・ゴッホを主人公に、その兄で無名だった頃の画家フィンセント・ファン・ゴッホとの関係を交えながらテオドルスが時代を切り開いていく様を描いた作品。 ゴッホといえば画家のゴッホが有名な訳だが、しかし彼と往復書簡の(膨大な!!)遣り取りをした兄弟がいたことはさほど有名ではないのではないか。僕もそこまで詳しくは知らないので、史実どうこうといった先入観の無い、真っ新な気持ちで読むことができた。 感想は・・・うーん、もっと描いて欲しかった。というのが、正直な気持ちである。パリといえば、それはそれは芸術の街として数多の芸術家の人間模様が繰り広げられた街の一つであり、実際に作中では様々な登場人物の立場や価値観が描かれていた訳で。 しかし、それらの多様性をどこかで回収し、読者のキャンヴァスに感動を幾層にも描く、という表現を(恐らく)作者であればできただろうに、如何せん情報の総量が足りない。というジレンマが見て取れる(事実、amazonのレビューには「打ち切り説」まで出ていたが、定かではない)。正直、不完全燃焼、だったのではないか。 それでも、僕は「ゴッホに兄弟がいたこと」「兄弟の間には、深い情動の遣り取りがあったこと」が分かっただけでも良かった。それに、穂積さんの絵柄が僕は好きなので、作品のキャラクターたちが語る人生の機微は(たとえその展開に物足りなさが有ったとしても)胸に去来するものがあった。 才能を才能として捉え識別すること、人を人として慈しむことは、時として互いの障害になることもある。その一方で、人々の人生に大きな意義を齎すのだということを知った。

“ビジネスロードテスト 新規事業を成功に導く7つの条件”(著:John W Mullins)

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著者はGAPの創業にも関わり、これまでに3度の起業経験を有するロンドンビジネススクールの教授。24人の起業家と投資家へのインタビューからまとめられた、ベンチャーの7つの成功条件モデルが提唱されている。 ポイントとしては、図にある通り「買い手視点」を「市場」、「売り手視点」を「業界」として構造を大きく分け、それぞれのポジションを定義・理解した上でミクロ・マクロな施策を論じている点だ(下記の図参照)。 さらに、経営チームの成功条件として使命・野心といった、定性的で情動的な要素にも踏み込んだ理論を提唱していることも特筆に値する。ともすれば机上の空論に終わりがちなフレームワークを、生きた現場で培った経験則に基づき語られる文章に、リアリティをおぼえる経営者・新規事業責任者も少なくないのではないだろうか。 尚、巻末にはビジネスプラン作成の前段階としてのフィージビリティ・スタディのツール・手法が纏められている。ロングインタビューや市場分析のワークシート、デュー・デリジェンスの作業段階についても言及されており、 新規事業を手掛けるにあたってのHow toを手っ取り早く知りたいという読者のニーズにも十分に答えている名著と言えよう。

”THIS IS SERVICE DESIGN THINKING. Basics―Tools―Cases―”(著:Marc Stickdorn)

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本書は、サービスデザインをテーマにした書籍であるが故に、デザイン思考によって記されるべき。という、コンセプチュアルな思想の下に書かれた本である。 サービスデザインとは、コストを最小限に抑え、稀少で高価な資源を最大限に活用しながら、一定水準のサービス・パフォーマンスを実現することを目指して、人、技術、方法、手順を詳細に計画する取り組みのことだ。そこには、ユーザー中心的に考えられた、領域を横断するカスタマーエクスペリエンスのto be像が存在する。 目次は、デザイン思考を基礎編、ツール編、事例編、深考編という章立てに分けられており、それぞれに十分な理解を求められる内容となっている。抽象的な議論に終始しがちなテーマを、端的に、実践的な手法と事例を合わせまとめた功績には、すばらしいものがあると僕は思う。 尚、「これからはロジカルシンキング(または既存の経営戦略コンサルティングファーム)の時代ではなく、デザインシンキング(または新興のデザインコンサルティングファーム)の時代だ」という様な論調も見られるこのごろだが―しかし本書では、ホリスティックな(全体的な)視点や戦略マネジメント的な視点も重視しており、その中でふんだんにロジカルシンキングの重要性をも説いていることは特筆に値する。即ち、全体観を以てカスタマーエクスペリエンスを考えていくにあたって、フレームワーク思考や経営戦略/事業戦略を考えることは避けて通れない道であり、効果的なツールの一つであることを著者は主張しているのだ。 ”Design solves a problem, art is expression”(デザインとは問題解決であり、アートとは自己表現である。) という詞に込められた何かを体感されたい方には、御一読をお薦めする。