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遥かなる時の彼方へ

『遥かなる時の彼方へ』という曲名を知っているだろうか。この曲は、クロノトリガーというTVゲームのエンディングで流れる曲で、フルートの主旋律がとても綺麗な楽曲である。 作曲者は光田康典という方で、当時スクウェアのゲームBGM作曲者の中でも若手で、初のタイトルがこのゲームだった。 ゲームのPR予告に使われたキャッチコピーは「星はかつて夢をみた」。主人公は時空を超える旅の中で、自分たちが棲む星の運命を知ることになり、破滅へと向かう未来を救おうと戦うーーというストーリーのRPGだ。 この作品は、幾つものエンディングが用意されていて、物語の終わらせ方次第で様々な結末を見ることができた(当初は画期的とされたマルチエンディングという仕様だ)。 あるエンディングの最後、スタッフロールで『遥かなる時の彼方へ』の曲が流れ出すとき。主人公とヒロインは、自らが持った風船で宙に浮かび上がって、そのままふたりが風と共に夜空を旅するシーンが流れる。 僕はこのシーンが大好きで、何度もクリアしては何度も同じエンディングを見た。もちろん、そのBGMである『遥かなる時の彼方へ』も、何度も聴いた。夜空の満月の中にふたりが消えていく映像も、漸く恵まれた機会をモノにしようとした若手作曲家が苦しみながらも書いた壮麗な楽曲も、TVゲームだけが毎日の楽しみで真面目な勉強が嫌いだった小学生を夢中にさせた虚構の構築に携わった、一人ひとりの総ての名前が流れるひとときも。 その何もかもが、綺麗だった。 いま、ゲームは大きく変わった。TVゲームは主流ではなくなり、僕らが毎日手に持つ液晶画面の中で遊べるようになった。 思い出補正、と揶揄されるだろうけれど。ゲームの幻想的なストーリーにこころ動かされて、まるでほんとうに物語の中に自分がいるかのようなあのころの没入と感覚と感動は、もう二度と感じることはできないのだろう。 それでも、いまだに曲はしばしば耳にするようにしている。 きっと、どこかで、時を超えて、あのころの自分に出逢える時が来るんじゃないかと、思っているからなのかもしれない。