スピッツというバンドについて想うこと

何を今さら。というほどに、この僕の精神の幾つかのパートを、このバンドは占めています。

いつリリースした曲であっても、聴けば懐かしい。ノスタルジーという詞は、このバンドと共にあると僕は思う。

そんな不思議なバンド―スピッツについて、今夜は語る。


“だから眠りに就くまで そばにいて欲しいだけさ”

草野正宗の才能


一度聴いたら忘れないだろう、その中性的な声は、唯一無二だ。そして、すべての作詞・作曲をこなす彼のセンスも然りだ(と、ファンは信じてやまない)。

特に詩についてだが、「俺が歌を作るときのテーマは”セックスと死”だけです」と、(たしか)“空も飛べるはず”という曲を出したころロッキンオンジャパンの取材で答えていた彼。そうなのだなぁ、エロスとタナトスなんだなぁ。精神分析学者・フロイトの定義に限ると、エロスは『生きている物質を更に大きな総合体に纏めようとする生の衝動』であり、タナトスは『無機物の不変性に帰ろうとする死の衝動』である。

何となくだが、このころの彼の詩には退廃的な文言表現が目立つ。まるで、人間関係の終わりを仄めかす様なシーンを描いた世界観の詩が、よく見られるからだ。

しかし、911テロ事件が起こった後の試行錯誤を経て完成した『三日月ロック』というアルバムの取材では「どこかに希望があるような歌を歌いたいと思うようになってきた」という発言が見られ、徐々に彼の志向性が光差す方へと向かっていく様が伺える。

因みに、僕はこの『三日月ロック』というアルバムが、これまで出たアルバムの中で一番好きだ。デビュー10週年とは思えない、まるでインディーズ・バンドのような少年的な勢いと、セッション・バンドの様な玄人の匂い。何とも言えない二面性を持ちながら―それでも未来に向かう曲たちが、僕のこころに残り続けているのです。



”夜を駆ける”。この曲が、今では”さらさら”の次に好き。導入から、その世界に惹き込まれる―映画を見ている様だ。
“夜を駆けていく 今は撃たないで”

メンバーの才能


草野だけでなく、メンバーの才能も見逃せない。

スピッツのリーダーでありベーシストの田村明浩。亀田誠治も認めるほどのベースの腕前も然ることながら、ギターソロへの造詣も深い。彼がスピッツとは別に組んでいるMOTORWORKSでは、“ギターソロディレクター”と呼ばれているほどだ。ライブでは、素手でシンバル殴ったりと、かなり暴れる。

僕は、”ロビンソン”のベースラインがお気に入りです。この曲は学生時代、バンドでコピーしたしね。

ギタリストの三輪テツヤ。その個性的な髪型と服装に「あれ?俺が見てたのはスピッツのPVなんだけどなぁ」という疑問を抱いたのは僕だけではないでしょう(たぶん)。文化服装学院ファッション工科専門課程アパレルデザイン科卒業という経歴にもあるように、かなり見た目にはこだわりのある彼だが、さほどライブでは暴れない。

笹路正徳氏がプロデュースしていた時代に、その哲学を研ぎ澄ましたアルペジオが十八番。

ドラマーの崎山龍男。スピッツの前にいたバンドがヘヴィメタルバンドだったこともあり、その技術には目を見張るモノがある。ライブでは”8823”の導入としてツーバスのドラムソロを入れるという、何とも才能の無駄使い的なパフォーマンスを見せることも。

コーラスをしばしば担当。ハイハットを細かく刻むフレーズや、スプラッシュを裏拍に挿入するフレーズなど、バラエティ豊かなドラミングで耳を奪うプレーヤー。僕は特に、裏拳っぽくシンバル叩く姿が好きで、何度もリプレイしてしまいます。

最後に、サポートメンバーのクジヒロコ。彼女は『フェイクファー』のツアーからずっとサポートメンバーとして活躍しており、鍵盤の他にもコーラス、フルートと何足かの草鞋を同時に履きこなす、スピッツには欠かせないメンバーだ。



ライブではこの曲で、正直CDより巧いんじゃないか、と思ってしまう様なキーボードソロが聴けます。
“ラララ 千の夜を駆け抜けて 走り続ける”

詩と曲のあいだで


最後に、名曲、ロビンソンについて。メンバーは、リリースの時「地味な曲だし売れないだろう」と思っていた―そんな逸話とは裏腹に、しかし、最大のヒット曲となったこの曲。このコード・プログレッションはスピッツ曲の王道とも言える進行で、サビのD-E-C#7-F#mで、グッとくるこの借用和音C#7…!!この感じ…!!この感じなのよ!!この感じなのよ!!うん。

ロッキンオンジャパンの取材で草野正宗が残した台詞は、たぶん僕の人生史上最高にピュアな台詞だと思う。

「.“誰も触れない二人だけの国”の国歌みたいなのを作ろうかなと思って」

君の為だけに、自分たちだけの為に、二人だけの為に作りあげた魔法の国を空に浮かべて、宇宙の風に乗せて。二度と、誰の手にもさわれない様な見知らぬ場所へと逃げる―きっと、永久に“取り返しのつかない”場所へと。それは、決して赦されることのない、幼い罪。

主人公の少年の、おくびょうで、独りよがりで、自己中心的で、狂ってしまいそうになるほど切実な恋心が、この詩の中に詰まっていると。僕は、思うのです。



彼の詩が好きなのは、きっと、人が何かを追い求めようとする気持ちが、輝きを見せながら、しかしそれでも、ふわっと消えていってしまう様を映し出しているからだと。僕は、思う。
そして僕ら今ここで 生まれ変わるよ
そんな訳で、スピッツというバンドについて想うことをしたためてきた訳ですが。詰るところ、僕の中にあるスピッツへの想いは留まることを知りません。これからも、新曲が出る度にワクワクしたい。ずっと、追い掛け続けます。



この詩のフレーズが、恐らく全スピッツファンのグレイテスト・ヒッツ(なんじゃないかなー)。
幸せは途切れながらも 続くのです

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