“なぜ、日本人はモノを買わないのか?: 1万人の時系列データでわかる日本の消費者”(著:野村総合研究所)

当たり前、と言い捨てるのは簡単だが、データがなければ「それは何故?」「それは事実?」という問いには答えられないし、「だから?」という、ほんとうに考えなくてはならない問いの答えへの仮説すら浮かばない。

地球環境問題への興味・関心から始まっただろう人の資本論的な思想傾倒は、プリウスという製品で消費という行動に表出した。その後、ホワイトバンドのブームで社会貢献/慈善/寄付とは何かを問い、リーマンショックを経験し経済至上主義的な価値観「お金さえあれば幸せになれる」というテーゼに疑問を持ち、人としての幸福とあるべき生活を模索していたこの国の大衆は、東日本大震災という出来事を境に『より“善く”お金を使う』ことを、文化にしつつある。

こうした文脈と共に、世帯ごとの消費行動の遷り変り、そして晩婚化の進んだ男女の消費行動の特性についてグラフと共に説明されると、とても説得力がある。

ただ、冒頭でも書いたように「当たり前」と言えば、アタリマエな話がつらつらと続く本でもある。ポイントは、これらのデータをどう読み解くのか、どう使うのかだ。それは、読者一人一人の問題意識に掛かっているとしか言えない。

自分はどうか、というと。一番興味深かったのが、「魅力を感じ積極的にお金を使いたい非日常的な商品とは?」という問い。複数回答で聞いた結果の上位3位は、下記のとおり。


  1. 自分や同行者の一生の思い出に残る様な体験・旅行
  2. 癒し・ストレス解消など、生きる力を与えてくれそうな体験・場所めぐり
  3. 自分の教養や能力の向上につながるような体験

で、この次に来るのが「このような商品・サービスにお金を使いたいとは思わない」がランクインしてしまうのだ。一体、こうした人たちは、どんなことにお金を使う(若しくは、使っていない)のだろうか。


そんなことを考えながらグラフを見ていると、こうしたデータが今後どんなマーケティングであっても考えるべき要素のヒントになるだろうことが分かる。

人はモノを買っているのではない、体験を買っているのだ。そんなことを言われてから久しいマーケティングの世界。しかし、そう云われている「人」そのものは、時代と共に大きく変わり続けているということを思い知らされる一冊。

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