”ぷしゅ よなよなエールがお世話になります”(著者:井手 直行)
読んだのは、よなよなエールが好きだから、気分転換したかったから、ここまで有名になるまでのプロセスに興味が沸いたから…というところ。
また、少し読んでみると、いわゆる”ベンチャー企業特有のノリ”がさほど濃く出ている訳でもなく。ネット通販で業績を伸ばしてから、意図的にそうしたノリを取り入れていくプロセスが描かれる。ここに、自分自身少々”お堅い”組織風土にいるのもあって、参考にできるところがありそうな気がした。
知名度・予算・人材など頼れるリソースの無い中で、どうすれば新しい取り組みをスケールさせていけるのか?というのは、常に興味のあるテーマだ。何故なら、小児・周産期医療の医療機関に従事する自分が、そうした事業環境にいるからだ。
そこで、先述の事業環境に適した戦略(戦術?)と思われるランチェスター戦略を引用しながら、これについて学んだ時期を思い出しながら。今回の書評を書いてみることにした。それは、『“星野リゾートの教科書 サービスと利益 両立の法則”(著:中沢 康彦)』で書かれた手法を模倣したものだ。
戦略的には『すぐ勝てる(効果検証が早い)/独自性の生きる/小さな市場セグメンテーション』を選択し、集中的なリソース投下をする。というのが、小さな組織が事業を伸ばすための原則だと理解しているし、自分はそうしている。
ランチェスターの法則を引くと、弱者(≒市場シェア2位以下のすべての企業)下記のとおりの戦略を採るべきである。
戦闘力の方程式は、ランチェスターの第一法則を引くと「武器効率×兵力数」。方や、市場規模の方程式があるとすれば「人数×単価」。
エールビール企業であるヤッホーブルーイングは1996年5月創立の新興企業であり、ビール市場では弱者も弱者。今でこそビール業界全体では大手5社に次ぐ第6位にまでシェアを伸ばしたものの、当時は一般的なベンチャー企業そのものであった。
一方、僕の従事する小児・周産期医療は、少子化のすすむこの現代日本において市場規模は100万人(≒100万組/家族)程度で推移しており、子育て中に重篤な疾患になる子どもの数も減少傾向にある(ただし、小児医療にかかる患者の重篤化が一方で社会問題になってはいるのだが、ここでは端折る)。
そして、子育て世代や10~30代のこれから子育て世代が興味・関心を持つ中心的な層、ということもあって、経済的に見ても可処分所得の余裕ある世帯は上の世代に比較して少ない――ということになる。すなわち、人数も単価も小さな市場、と言える。
そのどちらも市場シェアの弱者であり、ランチェスターの法則に則った戦略・戦術がハマる可能性があるのではないか、という視点で読書をふりかえりたいと思う。
p129~で語られる、ヤッホーブルーイングの事業成長において一つの契機となっただろう、よなよなエールを父の日に贈るというキャンペーン。ここには、下記のとおりの法則が見て取れる。
特に、「接近戦」(というか、Webという販売経路はほとんど総てが「接近戦」だ)がどのような実態なのかを知るにはとても分かりやすく、面白い。また、時代背景としてネット通販でギフトを贈る習慣が今ほど一般的でなかったとしたら、「一点集中」のポイントも押さえていたことだろう。
そして、すばらしいのがその後。父の日で成功したキャンペーンを、今度はお中元・お歳暮で実施したところ思う様に成功しなかった、という話だ。
ここに、おおよその状況の差異をまとめた。すると分かってくるのは、お中元・お歳暮という時期のキャンペーンにターゲットとなる市場は強者の戦場であって、弱者の戦場だったはずのスキマ市場やニッチ市場ではなかった――という事実だ。
恐らく、お中元・お歳暮に贈られるビールはサントリーのザ・プレミアム・モルツだったりアサヒビールのアサヒスーパードライだったりするのだろう。そこに、弱小ベンチャーの出す、好き嫌いが分かれるかもしれないビールを贈るのはリスクが有る。顧客は選ばなかったのだろうし、見方を変えれば、よなよなエールはそうした顧客を選ぶプロダクトではなかったのだ。
学びとしては、いかに「局地戦」を採れるか?というポイントだと思った。何故なら、ターゲットとする市場を誤ってしまえば、どんな施策もとどかずに失敗してしまうからだ。
パッと見、僕自身も同様に「父の日に売れた」という成果を目の前にしたシチュエーションに置かれれば、じゃあギフト文化のようなものに合わせたキャンペーン企画で二匹目のドジョウを獲りに…だなんて考えていたかもしれない。
「父の日に売れた」という成果をどう見れば良いか。「誰が」「どのような目的で/誰のために」「何を根拠に」購入したのか?という先述の様な分析があれば、あるいは下記のような機会にキャンペーンを張ると同様に売上を伸ばせるのかもしれないな、と考える。
これらの機会にギフトを贈るような関係性にある人は、きっと『贈り先の想定ニーズを把握しやすい人』で、『贈る者としてはちょっとしたサプライズを演出したいという気持ちの有る人』で、『付加機能の自由度があるプロダクト(具体的にはメッセージカード、独自のデザインのラッピング、併せて贈る追加のギフトなど)』を望む人である確率が高いと推察される。
ここまで来れば、あとはどの機会が最も市場規模が大きいのかを調査の上で施策の実施可否を問えばよい。そして、こうした中で、弱者の戦略としてより”尖った”もの(付加価値)が何なのかを考案すべきだ。
自分なら、どうだろう。結婚式ならアリかも…?でも結婚記念日は毎年やってくるが、その度にギフトを贈るか…?バレンタインデーなどもそうだが、うーん、酒飲みの異性の友人知人がいれば別だが、その方々からチョコを貰えるかというと…?
という訳で、僕ならこうしたキャンペーン企画を作る。
また、少し読んでみると、いわゆる”ベンチャー企業特有のノリ”がさほど濃く出ている訳でもなく。ネット通販で業績を伸ばしてから、意図的にそうしたノリを取り入れていくプロセスが描かれる。ここに、自分自身少々”お堅い”組織風土にいるのもあって、参考にできるところがありそうな気がした。
知名度・予算・人材など頼れるリソースの無い中で、どうすれば新しい取り組みをスケールさせていけるのか?というのは、常に興味のあるテーマだ。何故なら、小児・周産期医療の医療機関に従事する自分が、そうした事業環境にいるからだ。
そこで、先述の事業環境に適した戦略(戦術?)と思われるランチェスター戦略を引用しながら、これについて学んだ時期を思い出しながら。今回の書評を書いてみることにした。それは、『“星野リゾートの教科書 サービスと利益 両立の法則”(著:中沢 康彦)』で書かれた手法を模倣したものだ。
ランチェスターの法則”弱者の戦略”
戦略的には『すぐ勝てる(効果検証が早い)/独自性の生きる/小さな市場セグメンテーション』を選択し、集中的なリソース投下をする。というのが、小さな組織が事業を伸ばすための原則だと理解しているし、自分はそうしている。
ランチェスターの法則を引くと、弱者(≒市場シェア2位以下のすべての企業)下記のとおりの戦略を採るべきである。
- 局地戦:スキマ市場やニッチ市場に競争の場を特化・セグメンテーション属性を限定し、トップ企業と戦う
- 一騎打ち:資源を集中し、トップ企業と戦う
- 接近戦:強者に先んじて、顧客ニーズの把握や顧客へのコミュニケーション強化(販売経路、営業活動など)を図り、戦略の確度(商品のヒット率)を上げる顧客に接近する
- 一点集中:攻撃目標をひとつに絞り、強者の弱点を重点的に攻める
- 陽動作戦:従来のパターン以外の展開を測り、強者を出し抜く
戦闘力の方程式は、ランチェスターの第一法則を引くと「武器効率×兵力数」。方や、市場規模の方程式があるとすれば「人数×単価」。
エールビール企業であるヤッホーブルーイングは1996年5月創立の新興企業であり、ビール市場では弱者も弱者。今でこそビール業界全体では大手5社に次ぐ第6位にまでシェアを伸ばしたものの、当時は一般的なベンチャー企業そのものであった。
一方、僕の従事する小児・周産期医療は、少子化のすすむこの現代日本において市場規模は100万人(≒100万組/家族)程度で推移しており、子育て中に重篤な疾患になる子どもの数も減少傾向にある(ただし、小児医療にかかる患者の重篤化が一方で社会問題になってはいるのだが、ここでは端折る)。
そして、子育て世代や10~30代のこれから子育て世代が興味・関心を持つ中心的な層、ということもあって、経済的に見ても可処分所得の余裕ある世帯は上の世代に比較して少ない――ということになる。すなわち、人数も単価も小さな市場、と言える。
そのどちらも市場シェアの弱者であり、ランチェスターの法則に則った戦略・戦術がハマる可能性があるのではないか、という視点で読書をふりかえりたいと思う。
『売れる製品には物語がある』
p129~で語られる、ヤッホーブルーイングの事業成長において一つの契機となっただろう、よなよなエールを父の日に贈るというキャンペーン。ここには、下記のとおりの法則が見て取れる。
- 局地戦:スキマ市場やニッチ市場に競争の場を特化・セグメンテーション属性を限定し、トップ企業と戦う
- 接近戦:強者に先んじて、顧客ニーズの把握や顧客へのコミュニケーション強化(販売経路、営業活動など)を図り、戦略の確度(商品のヒット率)を上げる顧客に接近する
- 陽動作戦:従来のパターン以外の展開を測り、強者を出し抜く
特に、「接近戦」(というか、Webという販売経路はほとんど総てが「接近戦」だ)がどのような実態なのかを知るにはとても分かりやすく、面白い。また、時代背景としてネット通販でギフトを贈る習慣が今ほど一般的でなかったとしたら、「一点集中」のポイントも押さえていたことだろう。
そして、すばらしいのがその後。父の日で成功したキャンペーンを、今度はお中元・お歳暮で実施したところ思う様に成功しなかった、という話だ。
よなよなエールのキャンペーン「父の日」「お中元・お歳暮」分析 |
ここに、おおよその状況の差異をまとめた。すると分かってくるのは、お中元・お歳暮という時期のキャンペーンにターゲットとなる市場は強者の戦場であって、弱者の戦場だったはずのスキマ市場やニッチ市場ではなかった――という事実だ。
恐らく、お中元・お歳暮に贈られるビールはサントリーのザ・プレミアム・モルツだったりアサヒビールのアサヒスーパードライだったりするのだろう。そこに、弱小ベンチャーの出す、好き嫌いが分かれるかもしれないビールを贈るのはリスクが有る。顧客は選ばなかったのだろうし、見方を変えれば、よなよなエールはそうした顧客を選ぶプロダクトではなかったのだ。
CSFの効くポジショニングを探すことで、次の企画を考案する
学びとしては、いかに「局地戦」を採れるか?というポイントだと思った。何故なら、ターゲットとする市場を誤ってしまえば、どんな施策もとどかずに失敗してしまうからだ。
パッと見、僕自身も同様に「父の日に売れた」という成果を目の前にしたシチュエーションに置かれれば、じゃあギフト文化のようなものに合わせたキャンペーン企画で二匹目のドジョウを獲りに…だなんて考えていたかもしれない。
「父の日に売れた」という成果をどう見れば良いか。「誰が」「どのような目的で/誰のために」「何を根拠に」購入したのか?という先述の様な分析があれば、あるいは下記のような機会にキャンペーンを張ると同様に売上を伸ばせるのかもしれないな、と考える。
- 誕生日
- 結婚式・結婚記念日
- バレンタインデー/ホワイトデー
これらの機会にギフトを贈るような関係性にある人は、きっと『贈り先の想定ニーズを把握しやすい人』で、『贈る者としてはちょっとしたサプライズを演出したいという気持ちの有る人』で、『付加機能の自由度があるプロダクト(具体的にはメッセージカード、独自のデザインのラッピング、併せて贈る追加のギフトなど)』を望む人である確率が高いと推察される。
物語を紡ぐために、贈り手の動機付けを深く考える
ここまで来れば、あとはどの機会が最も市場規模が大きいのかを調査の上で施策の実施可否を問えばよい。そして、こうした中で、弱者の戦略としてより”尖った”もの(付加価値)が何なのかを考案すべきだ。
自分なら、どうだろう。結婚式ならアリかも…?でも結婚記念日は毎年やってくるが、その度にギフトを贈るか…?バレンタインデーなどもそうだが、うーん、酒飲みの異性の友人知人がいれば別だが、その方々からチョコを貰えるかというと…?
という訳で、僕ならこうしたキャンペーン企画を作る。
- When:誕生日・結婚式の選択式ギフト
- Where:Web、大学・企業、地域など
- Who:年齢的に上下関係にある年長者(先輩、上司、兄・姉、親…などなど)
- Whom:年下の人
- What:ヤッホーブルーイング全ブランドをセットにした”よなよな飲みくらべギフト”
- Why:めでたい記念日。「おめでとう!!」「(君は知らないかもしれないけれど)ビールにはこんなにも種類があって、たのしい飲み物なんだ」「ぜひ、新しい体験を二人(夫婦/贈り主と贈られたその人)で堪能してほしい」という想いをとどけたい。
- How:下記のような付加機能
- 祝福する気持ちを伝えるメッセージカード
- 想い出に残る様なオリジナルのビールグラス
- 公式ビアバル店舗への招待状(いっしょにいってね/いっしょにいこうよ)
書いていて思うのは、Whyにある「めでたい」という時こそがギフトを贈ろうとする動機付けになるのではないか?という仮説。
これが検証されて、父の日と比べて「めでたい」時はどうなのか?を考えるきっかけができれば、たとえばブライダル業界に売り込んだり(結婚式披露宴二次会に、公式ビアバル店舗が選ばれたり)百貨店に売り込んだり(”飲みくらべ”というコンセプトを持てば、ハズレを引くリスクを少しは回避できるが故に、それこそお中元・お歳暮に採用される可能性が出てくるのでは?)…と情報接点を増やすことで、もっと打率は上がっていくと思う。
ビジョン(未来像)とバリューについて考える
最後に、ヤッホーブルーイングの企業文化をここに記して今後の指針にする。
ビジョン
- クラフトビールの革命的リーダー
バリュー
- 革新的行動
- (造り手の)顔が見える
- 個性的な味
企業文化
- 知的な変わり者
- フラット
- 究極の顧客志向
- 自ら考え行動する
- 切磋琢磨する
- 仕事を楽しむ
特にバリューにある3つは、米国のクラフトビール企業の成功事例から抽出されたものであるという。これらの差別化が効いていないと、市場の戦争で生き残れないのだろう。どこまで見せる/魅せることができるか、これから考えていきたい。