葬送(著:平野 啓一郎)

平野啓一郎の文章は、とても叙情的だと思う。それはまるで、人の感情で織り上げたつづれ織りのようなものだ。繊細で心優しいショパンと、自身のコンプレックスに思い悩むドラクロワ。彼らの関係は、まるで互いが互いの光と影のように、時に陰影を逆さにする。

『日蝕』(処女作にして芥川賞受賞作)、『一月物語』に次ぐ“ロマンティック三部作”の最終作であるこの『葬送』は、その表題の通りのシーンで幕を開ける。ピアニストのショパンが結核で39歳の生涯を閉じるまでを、親友である画家のドラクロワとの友情を縦糸に編み上げた歴史小説だ。

どのシーンも、僕の気持ちに迫る何某かを齎した。誰が何と言っても、クライマックスは第二部の冒頭。ショパンの最後のリサイタルの描写ほど美しい文章を、僕は読んだことがない。まるで、時空を超えてそのピアノの奏でる感動を体験しているかのような錯覚をも想い起こさせる。眸に涙を溜めて、しかしそんなひとときが去ってしまうのを惜しみながら読んだ。 

因みに、この作品を書き上げた時。作者は僕と同い年だったそうだ。「そうなのかー」と思う。

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