“ベロシティ思考-最高の成果を上げるためのクリエイティブ術-”(著:アジャズ・アーメッド, ステファン・オランダー, レイ・イナモト)


著者は、デジタル広告制作のAKQA創設者アジャズ・アーメッド氏とナイキ・デジタルスポーツ担当副社長のステファン・オーランダー氏。AKQAのチーフ・クリエイティヴ・オフィサー/ヴァイス・プレジデントのレイ・イナモト氏が、日本語版出版に特別寄稿した文章が挿入されている(尚、本書を買わずとも、レイ氏の同様のオピニオンはこちらで読むことができる)。

本書では、ベロシティとは「不確定でスピーディな新しい時代の概念、環境」のことを指している(直訳するならば「機敏さ」が適切か)。そんな時代に創造性を発揮し成果を上げるため、どうすればいいのか?本書は、そのような問題意識を共有する2人のダイアローグを収めたものだ。気心知れた仲の様で、砕けた雰囲気が文面からも伝わってくる。長らくデジタルの現場にいた2人だけあって、非常に読みやすく、示唆に富んだ文章となっている。

内容をサマリすると、下記の様な内容である。
  • ベロシティを味方に付けるためには、勇気を持った個人と、イノベーションを重要視する組織が必要。ベロシティを味方に付けた企業は、「洗練されていて、簡単に使えて、時代を超える」「今すぐにでも使いたくなる」プロダクトを作り出せるようになるだろう。
  • 勇気を持った個人の成功事例の一つにはfacebook、Appleが挙げられる。ハッカー流、細部に神は宿る、というスローガンを個人が仕事に対して持つべき。
  • イノベーションを取りこんだ組織とするには、権限とリソースを持った専任のチームを作り、組織のコアコンピタンスと連携させて孤立させない仕組みを作るべき。
というお話。

・・・ただ、一寸ぶっちゃけてしまうと。第一に、AKQA独自の発想についてふれられることはほぼ無い。第二に、詰まるところNikeの成功事例以外語るに値する話ないよね、という内輪のお話に終始している印象。ということから、「どちらかというと、凄いのはナイキのデジタルスポーツセクション」という話に見える。

以上の感想を抱いてしまったが故に、あまり万人にお薦めできる書ではない。たとえば、広告/プロモーション、コミュニケーションデザインといったテーマについて自分なりの考えがある程度有る人であれば、批判的に本書の内容を捉え、また自分の思考の糧とできるかもしれない。

しかし、二人の話はとても未来志向で、勇気付けられる雰囲気だったことはたしかだ。一寸した暇つぶしに、ぜひどうぞ。

【NOTE】
  1. p38:「優れたコーチは思慮深くて、チームのモチベーションをあげるために使う言葉にも配慮している。選手のパフォーマンスが良い時には、ただ「天性」とか「才能」を褒めるのではなく、トレーニングでの努力や試合での活躍ぶりを褒めるんだ。」
  2. p55:「ユーザーの実態を正確に把握したい場合も、タイムラグのあるPOSデータや四半期に一度の追跡調査やフォーカスグループなどに頼るのではなく、中心にデータ解析を据える。リアルタイムでなければ、まったく意味がないんだ。」
  3. p80,81:(マーク・ザッカーバーグが投資家に向けて書いたレターの中で)「収益を上げるためにサービスを作り出しているのではありません。より良いサービスを作り出すために収益を上げているのです。」「ハッカー流というのは、絶え間なく改善し続けながら構築していく方法のことです。ハッカーは、改善できるところが必ずあるはずだ、完璧なものなんてない、という信念を持っています。悪いところを直さずにはいられないのがハッカーです。しかも多くの場合、そんなの不可能だと言う人や、現状に満足している人たちの前で、それをやってのけるのです」
  4. p94:「Do we have a product?」(by スティーブ・ジョブス)
  5. p130:「「人々が称賛するような仕事をすること」と、「今すぐにでも参加したくなるようなものをつくること」は、別物なんだ。」
  6. p137:コラボレーティブ・コンサプションの時代の新しい産業として、Airbnb、Zipcar、BlaBlacar.comを挙げている。
  7. p149:「だって僕たちの仕事は、「すばらしい物語を作って、うまく生きていくのに役立つものを伝えていく」ということになってきたわけだから」
  8. p160:(テレビゲームのデザイナーは)「いわゆる「オンレール体験」の分かりやすさと、プレイヤーが自由に動ける「フリーローミング」との間の最適なポイントを見つける必要があるんだ。」
  9. p193:「ソニーがラジカセのラインナップを拡大する際に、10代の若者を集めて、スタンダードな黒が良いか、豊富な色数の中から選べた方がいいか意見を聞いた。すると若者たちは、カラーバリエーションがあれば自分を表現できるし、かっこいいと思う、と答えた。そのセッションが終わって、研究者たちが若者に、お礼に好きな色のラジカセを持ち帰っていいと言うと、全員が黒を選んだそうだ。口で言うことよりも、実際やることに注意を向けなければいけない、ということだよね。」
  10. p144:ブレーという町にある、ファットダックというミシュラン3つ星レストランの事例。
  11. p275:(ナイキのデジタルスポーツ・チームでの「フィルター」のチェックリスト)
    1. アスリートがより良い結果をだすために役立つものか?
    2. 新しいメンバーを100万人増やせるポテンシャルがあるか?
    3. 二文以下で短く説明できるか?
    4. 自分も使いたいか?
    5. シンプルで、人間らしくて、欠かせないものか?
  12. p292:「子どもはみんな芸術家だ。問題は、大人になっても芸術家でいられるかどうかだ」(by ピカソ)
  13. p344:(インスタグラム創業者のケヴィン・シストロムが広告代理店のインターンシップにて一番学んだこと)「メッセージはシンプルに」
  14. p349:スウェーデン観光局の事例“Curators of Sweden”

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