クラウドファディング成功のための連立方程式


今回の企画を通して気付いた、現時点での自分の学びを記しておく。それは今後の自分のためであり、これからクラウドファンディングをする人たちにとっては”ひとつの予習”になると思う。無論、これはn=1の経験であって、もっと有意義なことを知る人は自分以外にもいるだろうから、その前提で。

なお、連立方程式、というものは、奥が深い。ひとつひとつの立式が正しくとも、その事象全体を俯瞰してもっとも正しいとされる数値が入らないと成功しない――というところに、“連立方程式”というフレーズの意味がある。「リソースが潤沢で何でもできます」というPJTはこの世に存在しないため、投資対効果をいかに追求できるか、というポイントをどれだけ考え抜けるかが勝負。

また、プロジェクトの開始時までと開始後で、施策の優先順位は変わっていくこともある。短い期間内で何度の効果検証ができるか、それをどこまでフィードバックとして活かせるか、というのも大切なポイントだと自分は思っている。

クラウドファンディングの“Why”を定義する


事業目標の確認の上で、どんなGAPがto be像と現状との間にあるのかを描く。そして、GAPの中の問題・課題を洗い出し、クラウドファンディングで解決したい問題を設定する。数ある問題・課題の総てをクラウドファンディンで解決できるわけではない(無論、そうある企画であればそれに越したことはない)ため、どの部分をクラウドファンディングに賭けるのか、という議論があるべきだ。

既存の無菌室すら、整備のままならない現状

自分のときのケースでは、事業推進のためには新しい無菌室の存在は不可欠であり、患者の数は右肩上がりで増えていた。無菌室を必要とするのは小児がんの患者さんだけではなく、最近は骨髄不全・免疫不全などの難病のこどもたちも含まれる。様々な疾患について治療法が確立されるに伴い、無菌室のニーズは拡大してきていた。

では、どのように無菌室をより良くしていけるか、となる。ヒト・モノ・カネ――こうした資源の中で、ヒトの面では一定水準にあるものの(しかし、これも社会的意義や寄附労働仮説に依存したところがあるため、人的資源は永続的なものではないように思う)、カネという点では見劣りするのが、ずっと小児医療全体の課題としてある。

一般的な総合病院・大学病院と比べて、小児専門の医療機関に付けられた予算と保持しているリソースは少ない。その背景は下記のとおり。
  1. 小児医療では成人医療に比して手間がかかる(集中治療管理を求める児の増加、ご家族中心のサポート、動きやすい幼児の不動化にともなう管理など)ため、より多くの人手が必要とされる。一般病院にくらべて、医師数では一般病院の約1.9倍、看護師数では約2.2倍の人員が必要(出典:成育医療の不採算に関する検討 - 日本医師会総合政策研究機構)なのだが、ひとつひとつの処置は大人の患者と診療報酬は同じ。
  2. 子どもの医薬品・医療機器は、成人のそれに比べて適用外(承認を受けている効能・効果以外を目的とした使用)・未承認薬がおおい(小児適用の医薬品は、成人のおよそ1/4)。小児への安全性が未確立であったとしても、救命のためには臨床研究として使用せざるを得ない【出典:ライフイノベーション戦略協議会 - 総合科学技術会議・内閣府】。したがって、医療機関がコストを研究費として持ち出しで治療にあたっている。
殊に小児がん医療においては、他の総合病院・大学病院の様に“がん対策”というテーマで取得した予算で成人・小児どちらにも使える医療機器・設備を購入できていれば、それだけ減価償却が進むし資産として効率が良いのだが、小児専門の医療機関ではそうしたレバレッジが効かない――という現状があった。さらに官公庁からの補助金・事業費などは使い道が限られており、今回の設備費・整備費という使途には使えない。

そこで、使途自由度の高い寄附金という財源に期待が寄せられた。「海外の医療機関の運営費は、7~8割が寄附金」――こうした話も聴こえてくる。無論、国ごとに寄附文化の風土や寄付税制の制度に大きな差異はあるのだが。

この2年程度で、Web経由で寄附をする方は寄附者全体の6割にまで伸びていた

医療機関の寄附では「現金寄附は書面でのお申し出」「その他は現物(玩具、書籍など)」が一般的だ。言い換えれば、”取引接点はアナログ”と表現できる。

となると、普通はクラウドファンディングの様な経路に躊躇するところもあるだろう。しかし、自分が転職してからの実績から、Web経由の寄附を中心とするクラウドファンディングであっても目標を果たせるだろうことを信じていた。

支援者との情報接点を持つ情報発信の方法としては、オールドメディア・Webを含めた情報媒体を介した”空中戦”と、営業・チラシ配布・説明会開催を介した”地上戦”とにファンドレイジング(寄附あつめ)の手法を分類できうる。そこで、クラウドファンディングは”空中戦”に該当する。

「何故、クラウドファンディングでなければならないのか?」という問いについてだが、自組織における寄附の意義が伝わっていないこと、目に見える形でステータスの分かるような情報発信がこれまでになかったこと、小児がんという疾患を超えて生きる人々の啓発に資すること…などを理由にクラウドファンディングを採用した。

まとめ
  • 事業目標
    -(小児がんに限らず)新設の無菌室を要する患者数
  • to be像と現状のGAPを描く
    -現状の無菌室は2床・のべ30名程度
    -既存の無菌室の老朽化
    -無菌室内の療養中のQOL
  • GAPの中の問題・課題の設定
    -使途の限定された少ない資金源:使途自由度の高い寄附金の取得
    -寄附の取り組み/方法/使途が知られていない現状:クラウドファンディング(デジタルの情報波及力、”国立の医療機関”という話題性、リアルタイムに現況の分かるプラットフォームの仕様)
    -小児がん経験者など、難病を乗りこえて生きる次世代の啓発:同上

目的(寄附の使途)をビジョンとして、“What”を思い描く


事業目標を踏まえつつ、寄附の使途・ビジョンを定義する。ビジョンの描き方は『有形のもの(ハード)』と『無形のもの(ソフト)』とに分かれる。

前者であれば、それなりに簡単だ。何故なら、そのもの自体は企業のカタログに載っていたり、イメージ画像を作ったりした空間の画像そのものがビジョンになるからだ。

今回の寄附使途は、無菌室の新設という有形のもの(ハード)

一方で、後者だとそれが難しい。「こういう世の中にしたい」という抽象的なものになればなるほど、ビジョンにするのは難しくなる。また、未だないプロダクト・サービスのためのクラウドファンディングだと、説明のリアリティが不足する。その時には、できる限りパイロット版のデータ・設計思想を纏めたり、画像・映像を撮ったりしておき、それをビジョンとして見せることを推奨する。

スケッチ図を作るにあたって、ヒヤリングした内容を纏めた

また、描いた“What”を、さらに因数分解してロードマップに落とし込むと良い。今回はその辺りが弱かったように思うのだが、寄附を戴いた後のスケジュールや見込みのようなものを見せられると尚良い。事業全体が目指すto be像に、どれだけのインパクトや貢献があるのかを説明するべきだ。

まとめ
  • 寄附の使途・ビジョンの定義
    -無菌室の新設・よりよい療養環境の実現
  • ビジョンの因数分解
    -小児がん医療 事業計画の策定
    -要件定義・新設する空間の選定
    -設計・求められる医療機器・設備・人材の選定
    -施工・調達
    -開設までの準備(入退院フローの見直し、人材の採用・育成など)
  • ロードマップの作成
    -(プロジェクト期間中は)設計・求められる医療機器・設備・人材の選定の伴う要件定義の情報公開をする

寄附者・支援者の棚卸・セグメンテーション


ステークホルダー・市場の選択と寄附のリターン考案はセットで考えると良い。ステークホルダーの棚卸では3Cなどのフレームワークで考えると抜け漏れがないだろう。その時、「誰が」「何を」望むのか、をリターン(クラウドファンディングの御礼のこと)に反映させたい。

戦略的には、新しい寄附者層の開拓がテーマのひとつだった

今回は、寄附型のクラウドファンディングであったため、寄附が反対給付にあたらない範疇でのリターン設定となった。実践してみて分かったのは、”御芳名を刻む”というリターンに何某かの思い入れを持たれる方が大勢いらっしゃる――という事実だった。今後、この想いを汲んで、今後のコミュニケーションを考えたいと思う。

その上で、コア/サブのセグメントを定義付けると良い。クラウドファンディングには、支援者の1/3の法則というものがある。

出典:最低1/3は、自分の直接の友人知人からお金を集めなくてはいけない

まず、少なくとも金額の1/3は『自分のネットワークを通じて』自力で集める必要がある。次の1/3は自組織のネットワークの友人・知人を通じて集まることが多い。そして、最後の1/3をクラウドファンディングのプラットフォームが見つけてくる――という原則だ。(出典:最低1/3は、自分の直接の友人知人からお金を集めなくてはいけない | クラウドファンディングで夢をかなえる | ダイヤモンド・オンライン)どのセグメントがどの1/3に該当するのかを勘案しつつ、どれだけの支援額を獲得できるのかの見立てを作ることがポイントになる。


各種情報媒体経由のユーザー数(≒各セグメントの現実的な市場規模)×CV率×寄附単価=想定支援額

このような計算式で、ざっくりと算盤を弾いておくことを推奨する(因みに、自分のケースでは予想を遥かに上回る反応と支援額のあつまりに、このあたりの見立てが全然機能しなかった)。兎に角、プロジェクトの冒頭で1/3集まらないことには、何も始まらないのだ。

まとめ
  • ステークホルダー・市場の選択
    -患者・ご家族
    -その他、接点のなかった方々(≒報道などで知ることになる)
  • 寄附のリターン考案
    -サンクスメールと無菌室(クリーンルーム)稼働の報告メール
    -御礼状・ 寄附金品領収証明書の送付
    -広報誌・Webサイト・サポーター記念銘板に御芳名を刻む
    -スタディツアー・講演会
    -入院中のこどもたちの文化祭
  • コア/サブのセグメント定義
    -コア:現在の医療スタッフ・患者さん・支援団体らにシェアを依頼
    -サブ:写真展など、施策を通じて知り合った方々とのリレーション

“How”の施策を企画する


ここでは、もう企画力がモノを言うとしか言いようがない。ポイントは、その施策が下記の条件を(or条件で良いので)満たすものであるべきだということ。
  • 『顔が見える』:誰が話したことなのか/普段どんな姿なのか/どんなことを考え、想っているのかが伝わるもの
  • 『見える化』:画像・映像/量・質の水準(ものさし)の分かるもの
  • 『尖らせる』:独自性/新規性/時事性/権威/社会的証明/希少性などを持ったもの(出典:『影響力の武器』)
では、今回はどうだったのか。自分のケースを、ここに記す。



大切にしたのは、『小児がんと戦う、みんなの願い。』――“願い”というコンセプト

今回は、七夕に記者会見の時期を合わせたため、“七夕”“願い”“短冊”“小児がん”などといった検索フレーズでGoogleのニュース検索機能を使って、片っ端からPR効果のある企画とは何かを調べた。

5年分のニュースに目を通し、どんな施策・企画がニュースとしてのパブリシティを獲得してきたのか?その原理を見出そうとしたのだ。そこで気付いたのは、”願い”というニュースの少なさと、内容の実践のしやすさ。ここに、今回の独自性を置いた。

また、自分が現在、よく読み直す書籍は下記のとおり。こういう先人の独白を読んでは、我が身を省みる毎日だ。
  • アイデアのつくり方:A Technique for Producing Ideas(著・James Webb Young)
  • センスは知識からはじまる(著・水野 学)
  • デザインコンサルタントの仕事術(著・Luke Williams)
  • THIS IS SERVICE DESIGN THINKING. Basics - Tools - Cases(著:Marc Stickdorn)
  • 10万人に愛されるブランドを作る!(著・中田 華寿子)
  • 世界を変えるお金の使い方(著・山本 良一)
  • 売れるもマーケ 当たるもマーケ―マーケティング22の法則(著・Al Ries , Jack Trout)
  • スウェーデン式 アイデア・ブック(著・フレドリック・ヘレーン)
  • 夢の病院をつくろう(著・NPO法人チャイルド・ケモ・ハウス)
そうして考えたアイデアの実現可能性を、自身が保持している資源・リソースを鑑みてフィージビリティ・スタディに掛ける。さらに、実践において必要なコストと想定するリターンを踏まえた投資対効果の算定をし、プロジェクトの情報公開の前に仮説を作っておくと良い。後に、仮説検証をするために。

まとめ
  • フィージビリティ・スタディ・投資対効果の算定(実践した施策は、下記のとおり)
    -記者会見・プレスリリース
    -様々なステークホルダーからの新着情報(ブログ記事)
    -レモネードスタンド・ぼんおどり納涼大会での募金
    -無菌室の設計思想・スケッチ図の情報公開
    -プロボノによるコピーライティング・ポスターの作成・ソーシャルメディアでのシェア
    -Bukatsudo ギャラリー(みなとみらい)での写真展
    -Short Film(動画)の作成・ソーシャルメディアでのシェア

各施策の”効果的なパターン”を見出す


そして、ついにプロジェクト開始。次々と実践していく施策の量・質での効果検証を続け、各施策の軌道修正をタイミング良くしていく。

おおよそ2週間経過したタイミングで、確率統計を使って成長曲線の算出をすると良い。そして、ベース目標とポジティブ目標を設定――「ここまでなら自然と達成できる」「この目標は何らかのリソース投下が必要」――という様に、自組織の中での期待値を握ると良い。

各指標のデータ群を標準化・グラフにする.これを踏まえて重回帰分析をすると視覚的に分かりやすいので(僕は)良い.

また、重回帰分析によって各指標との影響の及ぼし方を洗い出すことで、どんなセグメントのユーザーがCVに至っているのか?を視る。そのデータを踏まえて、クラウドファンディングの画面設計や導線の設置について見直しをすると良い(視点としては、導線の切れているページがないかどうか/LPとしての機能を果たしているかどうか/デバイスごとで表示する情報量に差異がないかどうか…などなど)。

クラウドファンディングのプラットフォームが載っているCMSでは実現できない点もあるかもしれないが、それでも機会損失をできる限り削り取ることが(地道ではあるのだが)成功への近道。データ・ドリブンな分析に基づいた仮説検証のサイクルは、プロジェクトを閲覧するユーザーを一人でも寄附者・支援者にするための、確実な手段になる。

新規の寄附者(厳密には”潜在的な寄附者”)に伝わる情報がどれだけCVに至らせしめているのかは、データの分析によって分かることが多い。一方で、既存の寄附者にとって大切な情報は、事業のロードマップを推進するステップの見える情報だったり、事業目標についての考え方だったりする。クラウドファンディングの『新着情報』に上がった内容は すべからく既存の寄附者にとどくため、発信する情報の位置付けを踏まえた編集をすると良い。

出典:BuzzFeed News ある日突然「がん」を告知された子どもたちは、何に苦しみ、どんな夢を見るのか

今回だと、BuzzFeed Newsある日突然「がん」を告知された子どもたちは、何に苦しみ、どんな夢を見るのかという記事経由のセッション数が、新規寄附者のCV数に最も大きな影響力を持っていた――という事実が重回帰分析から分かったことから、この記事への導線をプロジェクトの説明文章に挿入した(記事の最下部に、本PJTへの導線が存在したことも大きい)。その成果は、時と共に、徐々に現れることになる。

プロジェクトを終了し、自分自身でふりかえってみると、目標金額の200%を超える支援総額・史上稀に見る寄附者数という実績となったことは良かった。その一方で、施策の実践率は低いものに留まってしまったし、ロードマップの見せ方が拙いものになってしまっているのは課題だと思う。今後の自省と実践に、繋げたい。

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